主人公が河童と入れ替わるというストーリー。 水木しげる、彼の作品だ。
水木しげるの作品は、和やかで親しみがある。 主人公が妖怪であったとしてもだ。
そして彼のマンガ作品は、昔のものほど味がある。 『ゲゲゲの鬼太郎』よりも、その前作『墓場鬼太郎』のほうが人間味があっていい。 海外の人も、実は墓場鬼太郎のほうが好きだったりする。
この『河童の三平』も人間味あふれる作品だ。
『河童の三平』がこんなにも魅力的に思えるのは何故なのだろうか。その理由は3つある。
- 親しみやすいイラスト
- 読む者を飽きさせない展開
- やさしさ
1. 親しみやすいイラスト
水木しげるは、三平やたぬき、死神を、あえてあのスタイルで書いている。 «あのスタイル»といっても、見ていない人には伝わらないのだが、 掻い摘んで書くとすれば、イケメンが出てこない上に、我々の知っているものしか出てこない。 生活感あふれるスタイルなのだ。
2. 読むものを飽きさせない展開
主人公の三平は、小学校に行き始めて間もない頃、祖父が死ぬということを知らされる。通常ではありえないこの急展開。 三平は、なんとしても祖父を助けたいという一心で、死神を相手に策をめぐらす。 祖父のために必死になる三平には、現代では失われてしまった»愛情«が垣間見える。この愛情こそが我々日本人の心にぐっとくる。
祖父が死に、そして父も死ぬ。 全ては死神の仕業なのだが。 この死神は、ゲゲゲの鬼太郎でいうところのねずみ男のようなやつだ。 決して親しくはないが、やたらと付きまとう、ずる賢いヤツ。
読むものを飽きさせないエッセンスがこの死神で、三平は、何度も死神の罠にはまってしまう。主人公がほのぼのとしている上に、「死神の罠だ!」というのが読者にわかってしまうため、ことあるごとにハラハラしてしまう。
「それ死神の罠なのに……えっ、それでいいの!?」
3. やさしさ
第4話あたりから、三平の優しさが現れてくる。 「面倒をみなくちゃいかん」と芯のしっかりした三平。 投げ出すこともなく、小人たちの面倒を見ようとする。 さらに三平は、第8話で、すごい友情を見せてくれる。
タヌ吉と河童が一緒になって、三平の母を悲しませぬようにと一芝居演じるのだ。タヌ吉と河童の、他を思いやる気持ち、そして、三平、タヌ吉の友情は、今までに見たことのない大きいものだった。
そんな友情を持っている人が何人いるだろうか。
妖怪・動物ばかりのキャラクターで、人間味あふれる作品を作ってしまう水木しげる。 しばらく前まで「マンガなんて……」と思っていた私だが、 今では片っ端から彼の作品を読み漁っている。
『河童の三平』は、利根川べりに伝わる河童伝承の秘薬「三平こう」をもとに、水木しげるがつくったもの。 『河童の三平』自体は、1961年に描かれた作品だ。
こんなにも語り継がれる妖怪「河童」なんてのも珍しい。