n次元ユークリッド空間 \( \mathbb{R}^n \) と距離の性質


(n)次元ユークリッド空間 \( \mathbb{R} ^n \) とその距離についてまとめました。

(n)次元Euclid(ユークリッド)空間 \( \mathbb{R}^n \)

直積集合 \( \mathbb{R}^n \) に対し、 下のように距離を定義したとき、 \( \mathbb{R}^n \) を \(n \)次元ユークリッド空間といいます。 そして \( \mathbb{R}^n \) の元を点といいます。

距離

\( \mathbb{R}^n \) の元 \( x = (x_1, \cdots , x_n) \), \( y = (y_1, \cdots , y_n) \) \( ( x_i, y_i \in \mathbb{R} \; (i =1, \cdots , n) ) \) について、 その距離 \( d(x, y) \) を次の式で定義します。

\[ d(x, y) = \sqrt{\sum _{i=1}^n (x_i – y_i)^2 }\]

1次元空間においては \( d(x, y) = | x – y | \) , 2次元空間においては \(d(x,y) = \sqrt{(x_1-y_1)^2 + (x_2-y_2)^2} \) となります。

距離の性質

\( \mathbb{R}^n \) の距離は次の性質を持ちます。

  • 任意の \(x, y in \mathbb{R}^n\) について \( d(x, y) \) は負でない実数。
  • \(x, y in \mathbb{R}^n\) について \( d(x, y) = 0 \) となる必要十分条件は \( x = y \) 。
  • 任意の \(x, y in \mathbb{R}^n\) について \( d(x, y) = d(y, x) \) 。
  • 任意の \( x, y, z \in \mathbb{R}^n \) について \( d(x, z) \leq d(x, y) + d(y, z) \) (三角不等式)。

最初の3つは距離 \( d(x, y) \) の定義より明らかです。

最後の式、三角不等式を証明してみます。

証明

\( x = ( x_1, \cdots , x_n) \) , \( y = ( y_1 , \cdots , y_n ) \) , \( z = (z_1 , \cdots , z_n ) \) として、 \( a_i = x_i – y_i \) , \( b_i = y_i – z_i \) と定義します。 すると \( d(x, z) \leq d(x, y) + d(y, z) \) は次のように表せます。

\[ \sqrt{\sum _{i=1}^{n} \left( a_i + b_i \right) ^2} \leq \sqrt{\sum _{i=1}^{n} a_i ^2} + \sqrt{\sum _{i=1}^{n} b_i ^2} \]

この式は、両辺を2乗して ( sum a_i^2 ) , ( sum b_i ^2 ) の項を消去して両辺を2で割った不等式と同等です。

\[ \sum _{i=1}^{n} a_i b_i \leq \sqrt{ \left( \sum _{i=1}^n a_i^2 \right) \left( \sum _{i=1}^n b_i^2 \right) } \]

さらにこの証明は、両辺を2乗した不等式が証明できれば十分です。

\[ \left( \sum _{i=1}^{n} a_i b_i \right)^2 \leq \left( \sum _{i=1}^n a_i^2 \right) \left( \sum _{i=1}^n b_i^2 \right) \]

最後の式は Schwarz(シュワルツ)の不等式と呼ばれるもので、 様々な解法が知られています。 \( n = 1 \) のときは等号が成立します。

解法1

\( n \) が2以上の場合を考えます。 右辺から左辺を引いて計算します。

\begin{eqnarray} & & \left( \sum _{i=1}^n a_i^2 \right) \left( \sum _{i=1}^n b_i^2 \right) – \left( \sum _{i=1}^{n} a_i b_i \right)^2 \\ & = & \sum _{\substack{1 \leq i \leq n , 1 \leq j \leq n , i \neq j}} a_i ^2 b_j ^2 – 2 \sum _{1 \leq i \lt j \leq n} a_i b_i a_j b_j \\ & = & \sum _{1 \leq i \lt j \leq n} a_i ^2 b_j ^2 + \sum _{1 \leq i lt j \leq n} a_j ^2 b_i ^2 – 2 \sum _{1 \leq i \lt j \leq n} a_i b_i a_j b_j \\ & = & \sum _{1 \leq i \lt j \leq n} \left( a_i b_j – a_j b_i \right) ^2 \end{eqnarray}

2乗の和ですから0以上になることがわかります。

等号成立条件は、 全ての異なる \( i, j \) について \( a_i b_j – a_j b_i = 0 \) が成り立つことです。

統合成立条件の考察

\( a_i b_j – a_j b_i = 0 \) とは、 2次元ベクトル空間 \( \mathbb{R}^2 \) の元 \( a = (a_i, a_j), b = (b_i, b_j) \) を考えた時、 一方が他方のスカラー倍になっているという状態です。

これは、 3点 \(x, y, z\) が一直線上にあることを意味します。 ベクトルとしての演算を認めるならば、 \(c,d\) をスカラー値として、 \( c(x – y) = d(y – z) \) と書くことができます。

\( a_i b_j – a_j b_i = 0 \) の式を地道に解いてみます。

\( a_i = 0 \) の場合

\( a_j = 0 \) または \( b_i = 0 \) となります。

\( b_i \neq 0 \) の場合は、 すべての \( j \) について \( a_j = 0 \) となり、 これは \( x = y \) にほかなりません。

\( b_i = 0 \) の場合は、 \( a_i = b_i \) と書けます。

\( a_i \neq 0 \) の場合

\( c = \frac{b_i}{a_i} \) と定義します。

\( a_j \neq 0 \) の場合、 \( \frac{b_i}{a_i} = \frac{b_j}{a_j} = c \) 。 \( a_i \neq 0 \) なるすべての \( i \) について、 \( c a_i = b_i \) となります。

\( a_j = 0 \) の場合、 \( b_j = 0 \) となりますので、 \( c a_j = b_j \) が成り立ちます。

\( x, y, z \) が一直線上にある場合に最後の式の等号の成立することがわかりました。 シュワルツの不等式でも、この場合に等号が成立します。 三角不等式は \(c a_j = b_j \) を代入すると、 \( |c + 1| = |c| + 1 \) が条件であることがわかります。 これより \(c a_i = b_i , (0 \leq c) \) が等号成立条件です。

解法2

\( x = y \) の場合は すべての \( i \) について \( a_i = 0 \) となり、 不等式が成立します(等号成立)。

\( x \neq y \) の場合について \( t \) を実変数として、 2次式 \( f(t) \) を考えます。

\begin{eqnarray} f(t) & = & \sum _{i=1}^n \left( a_i t + b_i \right) ^2 \\ & = & \left( \sum _{i=1}^n a_i ^2 \right) t^2 + 2 \left( \sum _{i=1}^n a_i b_i \right) t + \left( \sum _{i=1}^n b_i ^2 \right) \end{eqnarray}

\( f(t) \) の定義(最初の式)から明らかに、 任意の \( t \) について \( f(t) \geq 0 \) となります。 これより判別式が0以上となり、次の式が成り立ちます。

\[ \left( \sum _{i=1}^n a_i b_i \right)^2 – \left( \sum _{i=1}^n a_i ^2 \right) \left( \sum _{i=1}^n b_i ^2 \right) \geq 0 \]

移項するとシュワルツの不等式となります。

等号成立条件の考察

等号成立条件は、 \( f(t) = 0 \) が重解を持つ場合です。 その解を \( t = t_0 \) とします。

\[ 0 = \sum _{i=1}^n \left( a_i t_0 + b_i \right) ^2 \]

そのとき、 すべての \( i \) について \( a_i t_0 + b_i = 0 \) となります。 これは \( x, y, z \) をベクトルとして、 \( – t_0 (x-y) = (y – z) \) すなわち 3点 \( x, y, z \) が一直線上にある場合です。 (これは \( x = y \) となる場合も含みます。)