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precursor という言葉は前兆という意味で使われますが、 cursor という語はほとんどコンピュータに関する場面でしか使われません。 なぜなのでしょうか。
Cursor と Precursor
Cursor も precursor も、 いずれもラテン語に端を発する単語です。
- cursor
-
もともとの意味は「走るもの」、「走者」。 今ではほぼコンピュータ用語となっており、「位置を示すもの」、「移動するインジケータ」という意味で使われています。
- precursor
-
pre + cursor で、 先に走る者という意味。 「先駆者」、「前兆」という意味で使われていた。 今もなお、「全身」、「先駆け」という意味で使われる。 科学・化学では「前駆体」という意味でも昔から使われています。
なぜ cursor はコンピュータ分野でしか使われなくなったのか
昔は「走者」という広い意味を持っていましたが、印刷・写本文化の衰退でその用法が消え、IT分野で「カーソル」という新しい意味に特化しました。
cursor には「走者」という意味があったものの、 ほかにも「runner」「messenger」など、走者や使者を表す一般語があり、cursorの古い意味は不要になりました。 一方で、「cursor」が1960年代の端末やGUIで「位置を示すもの」という意味でつかわれるようになり、IT用語として定着しました。 印刷や写本文化の衰退で使われる場面が消えてから、IT分野に再利用されるまでには空白期間がありました。
cursor, runner, messanger の比較
cursor が runner, messanger と置き換えられるくらいなら、 そもそもなぜ cursor という言葉が存在する必要があったのでしょうか。 実は、 それぞれの言葉が担っていた役割やニュアンスは違っていたのです。
- runner
- 語源は英語。 run + er。
- 実際に「走る人」や「走るもの」を指す、非常に具体的な言葉。 (例:競技のランナー、機械部品のランナー。)
- messenger
- 語源はラテン語 mittere (送る), missaticus (送られたもの) が 古フランス語 “messagier” (走者) になり、 それから英語になった。
- 「メッセージを運ぶ人」という役割に特化した言葉。 (例:伝令、使者。)
- cursor
- 語源は ラテン語 で 走者
- ラテン語 cursor は「走者」ですが、英語では古くから 「走りながら何かを指し示すもの」 というニュアンスを持っていました。 そのため、写本や印刷の世界では「欄外に注釈を走らせる人」や「ページを走査するもの」を指すことがありました。
ニュアンスの違い
| cursor | 抽象的、位置や情報を「走査する」 |
|---|---|
| runner | 物理的に走る主体 |
| messenger | 情報を運ぶ役割に特化 |
なぜ precursor は一般の語として使われているのか
cursor はもうコンピュータ用語としてしか使われませんが、 precursor は一般の語としてまだ使われています。 それはなぜでしょうか。
高い意味の汎用性
「precursor」は「先駆者」「前兆」「前身」という意味で、科学・医学・歴史・文学など幅広い分野で使える抽象的な概念を表しました。 多様な文脈で必要とされる言葉だったため、日常的に使われる語として残りました。
| 分野 | 使用例 |
|---|---|
| 科学 | 化学反応の前駆体 |
| 医学 | 病気の前兆 |
| 社会 | 技術革新の先駆け |
競合の少なさ
precursor と同じ意味を完全にカバーする一般語はほぼありません。 forerunner, harbinger 等の類義語はありますが、ニュアンスが異なります。 precursor は、後に続くものの原因や前身を意味し、発展や因果関係が強調された語です。 近代科学の発展(18~19世紀)で「precursor」は専門用語として定着し、そのまま一般語にも浸透していきました。
前兆を意味する英単語
- harbinger
- 語源は古フランス語 herbengier (宿を準備する人)
- 何かが来ることを告げるもの、前触れという意味。 文学的・感覚的なニュアンスがあります。
- 例: Dark clouds are a harbinger of a storm.(暗雲は嵐の前兆だ)
- omen
- 語源はラテン語 omen (兆し)
- 運命的・神秘的・文学的な良い・悪い出来事の兆しを意味します。
- 例: The sudden silence was an ominous sign.(突然の静けさは不吉な兆しだった)
- portent
- 語源はラテン語 portentum (予兆)
- 重大な出来事の前触れを意味します。
- 例:”The comet was seen as a portent of disaster.”(その彗星は災厄の前兆と見なされた)
- sign
- 「何かを示すもの」全般を意味する。 因果関係は必須ではなく(単なる兆候や記号)、 その点で precursor とは異なります。
- 例: Early signs of recovery.(回復の初期兆候)
- forerunner
- 先駆者、前触れを表します。 「先に来たもの」という時間的・順序的な意味が強く、 因果関係を前提とした前兆を意味する precursor とは異なります。
このように、 cursor と precursor はどちらもラテン語に由来し、誕生の背景は似ていますが、他の語との競合や社会的変化によって、cursor はIT用語に専門化し、precursor は一般語として広く使われ続けています。




